高校3年生の時、女性の英語の先生と進路について話をしていた。
「私は父のような歯医者になるから歯学部にいこうと思う。」と言うと、
「他人の汚い口の中をみる仕事なんて楽しいかしら…」とポツリ。
あ、そういう考えもあるんだ…
何も返す言葉がなかったのを覚えています。
あれから、25年、ジェットコースターのような人生を歩みながら、
歯科医師はなかなか楽しい仕事、創造的で非常にやりがいのある仕事、
今はそう断言できる!
確かに口の中は汚い。食べカスは詰まるし、唾液も舌も臭う。湿っていて細菌だらけだし、歯肉から血も出る。
そして口の中は非常に狭く、治療は繊細で時間のかかる根気のいる仕事、姿勢も目も楽じゃない。
でも、歯がなければ食べれないし、身体のバランスは崩れ、力も入らない。
頑張ろうという時に、「歯を食いしばって」なんて言ったりしますよね。
力を入れたり、集中するときは歯を噛み締める、歯は重要なんです。
そして、歯は『美しさ』には欠かせないもの!
常に人の目に映る、笑顔を見せた時に見える歯、会話中にちらっと見える歯、
白く輝いた歯なら、印象はとても良いし、とにかく映える!女性なら格段に赤い口紅が映える!
私にとって、歯(そして爪)は大切なポイント。
男性も女性も、きちんとケアされていると、好感が持てるし、そこから自分や周りの人に気を配れる人だと感じ取れる。
歯科医として、歯をきれいにして生き生き変わっていく人を見ることは、この上なく幸せで、やりがいのある仕事。
私には2つ上の姉がいて、姉もまた歯科医師。
ただ私とは違い、歯の治療をしない、歯科麻酔専門医。
姉は小さい頃から常に優秀で、元々医学部へ行く予定を、突如父と同じ歯医者でいいと言い出し(姉的にはレベルを下げたらしい)、
推薦で歯学部に入学したほど、学力優秀な姉。そんな自慢の姉が私の2年先を生きている。
常に姉と比較されつつも、私への親の期待はほぼ無いようなもので、私は意外に自由に生きていたのだと思う。
大学卒業後もそれなりに研修し、それなりに歯の治療の経験を積んでいたし、
ただ興味があったのが外科とインプラント治療。
当時まさに、国内ではインプラント創生期の頃で、
毎週末はインプラント学勉強のため口腔外科の先生のアシスタントを志願して、2年間続けた。
そんなそれなりな私が、歯科医師という仕事に、本当に本気で向き合い、歯医者になったことを感謝する日が来るのです。
29歳の時、大好きな父が突然この世を去りました。
3月のある朝、技工室で白衣のまま倒れ、その3日後に亡くなった父、59歳でした。
私はすぐ父の歯科医院を継承開業し、30年父と共に働いてきたスタッフと頑張る決意をしました。
姉は大学病院で責任ある立場で仕事をしていましたから、
継承するのは私、迷いなどありませんでした。
突然いなくなった父、クリニックを守り、
患者さん、スタッフに父の想いを繫げるのは私の役目だと思ったのです。
父の大きな傘に守られ生きてきた私は、初めて本当の責任というものを知り、
歯の総合的治療だけでなく、地域医療の役割や経営(スタッフや家族を含め)を考える立場になりました。
それは非常に孤独で困難で、そしてまた、歯医者であることに感謝する日々でもありました。
なぜなら、父が居た場所にいる、仕事を受け継ぎ、父が築いた歯科医院を守ることができる、
同じ歯科医として父と繋がる重要な場所だったから。
次の 「人生の選択」 へ続く